ブレインテック・コンソーシアム キックオフイベント

「ブレインテック・コンソーシアム キックオフイベント」は、コンソーシアムの発足を記念したオンライントークイベントで、ブレインテックに興味を持つ研究者や企業を対象に2021年8月13日に開催されました。本レポートで当日の内容を一部ご紹介します。

目次

アーカイブ映像
基調講演―牛場 潤一 氏 「脳科学とITによる自在な暮らしを目指して」
コンソーシアム理事を交えたパネルディスカッション
参加者とアンケート結果

概要・登壇者

開催日時: 2021年8月13日(金) 13:30〜15:00 オンライン開催
https://btc-kickoff.peatix.com/

【プログラム】
13:30~13:40 ブレインテック・コンソーシアム発足について
13:40~14:20 基調講演(牛場潤一氏)
14:20~14:50 パネルディスカッション
14:50~15:00 質疑応答
15:00 終了

【登壇者】
牛場 潤一 氏
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 准教授/Connect株式会社 代表取締役

藤井 直敬 氏
医学博士/脳科学者/株式会社ハコスコ 代表取締役

大隅 典子 氏
東北大学 副学長/大学院医学系研究科教授

北川 拓也 氏
楽天株式会社 常務執行役員 CDO (チーフデータオフィサー)

川田 十夢 氏
AR三兄弟 長男

稲見 昌彦 氏
東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野教授/博士(工学)
(以下、登壇者の敬称略)

アーカイブ映像

当日のイベントを見逃した方は、YouTubeにてアーカイブをご覧いただけます。

基調講演 牛場潤一氏
「脳科学とITによる自在な暮らしを目指して」

ブレインテックの広がり

イーロン・マスク氏のNeuralinkなど埋込型BMI(Brain Machine Interface)デバイス開発を行っている海外のブレインテック系スタートアップの紹介から始まりました。

牛場「埋め込むタイプのブレインテックは、凄い別世界に僕たちを連れてってくれる感じはする一方で、ちょっと自分たちが住んでいる世界とは違うなぁと思う方もいるかと思うんですが、手術を必要としないNon-Surgicalな脳波を計測する装置というものもどんどん身近に広がりつつあります。」

ブレインテックで変わる暮らし

ブレインテックが広がった時にどんな豊かな暮らしが実現するのか。スマート家電を考えただけで操作できるリモコンいらずの生活、気持ちを汲み取ってそっとムードを作ってくれるBMI家電、コントロールしにくいメンタルのサポート、知らず知らずのうちに溜まってきた疲労をアラート、運動をサポート、赤ちゃんと会話、などなどその活用方法は幅広く、今やブレインテック企業は世界で450社を超えていると言われています。

牛場「これは黎明期で、こういうものが本当にしっかり効果があるのか、効果があるとしたら誰にどういう使い方をすれば効くのかというような検証は、まだまだこれからのものも多いので、そういったことを上手に育てていきながらマーケットを大きくしていく必要があります。」

ブレインテックはなんでこんなに面白そうなのか?

牛場「やっぱり脳そのもの(中枢)にアクセスできたら、今までのアプローチではできなかったことができるようになりそうだな、っていう期待感があるわけですね。まだソリューションに出会っていないニーズ(Unmet Needs)がまだあるだろうって皆がなんとなく思っているからですね。」

倫理的な議論について

電流刺激による脳機能の修飾が科学的なブームを迎えていますが、健康な人の脳を操作する「エンハンスメント」(増強)は許されるのか?という倫理的な議論も必要です。効果についての言い方(広告)も間違えてしまうと炎上してしまう。

牛場「ブレインテックは皆の生活を変えていくポテンシャルは凄くあるんだけど、上手に導入していかないと、こういうハレーションが起きやすい分野でもある。」

ブレインテックに挑戦するために

牛場「サービス設計、脳科学、情報処理、エレクトロニクス、こういう専門家を上手に機能させる混成チームを作っていかなきゃいけない。こんなに幅が広いチーム構成っていうのはなかなか無いので、それ自体がチャレンジングだと思いますけど、逆に言うと凄い面白いかなと思ってます。」

脳信号の記録と脳状態の「読み出し」

脳信号の記録は1900年代からスタートしたという長い歴史があります。

牛場「BMIとかブレインテックって、脳を洗脳するんじゃないか、脳を取り乱してテレパシー的なことをやってるんじゃないか、とか言われることもあるんだけど、もう何十年も前からそういうことを発想の種にして正しい医療技術っていうのが結果的に出来ていたりもするので、面白いですね。なので、SFチックだな、とか、怪しいな、とかいうことだけにヘジテイトしたりビビったりしないで誠実にちゃんと科学として発展させていくと、色んな物が開けていくのかな、という気もします。」

「読み出した脳情報」をフィードバックする

牛場「読み出した後さらにフィードバックをかけると、自分で脳の機能を調節するっていうことも出来るようになります。」

脳には可塑性があるので、フィードバックしてサポートすることで、例えば脳の傷を迂回する新しい神経回路の形成を促すこともできると言います。

ヘルスケアなのか、医療なのか?

牛場「行政の側も現在の世の中の仕組みとか技術の水準とかを見ながら規制の仕組みを少しずつアジャストしようとしてくれているので、ガイドラインに沿って事業化していけばヘルスケアの文脈でも一定のものはブレインテックとして市場形成していけそうだな、という風に思います。ここは非常に大きいメッセージで、しっかり科学的なエビデンスを積み上げていって、有効性と安全性を担保していくということが最終ユーザー(消費者)の保護に繋がるわけだし、怪しいなぁというような技術が世の中に出回らないという点も非常に重要です。しかし、それを全部医療の側に立つととてもじゃないけど検証するのが大変とか、すぐには出来ないとか、資金的にもたないとかが起こる。そういうところをどうやって現実的にやっていくか、に関しては倫理にちゃんとアラインしながら行政のガイダンスに上手にアライメントしていって、事業展開していけばきっとブレインテックも上手に発展していくんじゃないかな、と思います。」

コンソーシアム理事を交えたパネルディスカッション

AIやXRとの組み合わせでどう広がる?

川田「脳波からAIをかませて解析した上でどのような経験だったかを残せるようになるならば、再生方法も変わってくるはず。映像とは違った経験の宿し方や再生方法がありそうだと思いますが、AR/VRに関する接続の可能性はありますか?また、皆が期待するARのためには、インプットとアウトプットが非常にシームレスに繋がっている必要があります。そのトリガーにブレインテックがなったら凄いやりやすいです。」

牛場「意識に上ってないけど脳は反応しているということは多くあります。そういう無意識的な反応は脳波の分析から呼び出せそうだということが分かっています。それを利用して、本人の意識に上らない形で、脳の反応とXRをクローズドループで循環する仕組みは作れます。これまでの意識して操作してXRが体験として戻ってくる、という仕組みとは全く異なるものになる実感があります。VRをフィードバックに使うこともありますが、その人が本来持つ知覚とギャップレスなフィードバックを与えてあげると、リアルになって知らない間に学習したりすることもあります。」

藤井「画像でフィードバックを与えると、その画像は他人が考えて言語化したものを画像にするので意識的なものになります。するとギャップに気が付いて違和感が出てくるので、無意識に着目する方が面白いと思います。」

稲見「VRで表示する環境に視線の動きなどの身体の指標をフィードバックして、思考を直接投影させると、今までのVRとは全く異なる強力な経験になります。上手く使うと、そのVRをかけるだけで元気になる、といったポジティブなフィードバックもできるはずです。」

大隅「拒食症の方などが抱える認知の歪みについても、このフィードバック技術を応用して認知を戻してあげる、といった活用もできそうです。」

ロボット3原則のBMI版は作れるか?

大隅「やっぱり倫理の問題は議論しなきゃいけないと思います。例えばドーピングなど、脳に対する刺激は良いのかという議論は今後出てくると思います。」

北川「人へのバイアスや差別意識などの認知についても、その人が積み上げてきた歴史上の経験や認知によって形作られるという側面もあると思うので、ブレインテックで世界が良くなるような認知の仕方を促してあげる、ということもできると思います。勿論これも大きな倫理の問題を抱えていますが、あり得る方向性だと感じています。」

藤井「その時にガイドするのは、どこに誘導するとその人が幸せなのか、社会にとってこの範囲だったらガイドして良い、といった境界を設定しなければならないというのは、ブレインテック以外でも何をするにしてもつきまとうことだと思います。」

他にも、「ブレインテックで生活や社会は何が変わる?」というテーマについても興味深いディスカッションが盛り上がりました。多くのご質問に対しての質疑応答もあり、時間に収まらないほどの熱狂ぶりでした。

稲見「今日は凄い楽しい時間を過ごすことができました。この話し足りない感じというのが、このコンソーシアム / コミュニティの未来を感じました。未来をオープンにして、属性をターゲットにするのではなく、コミュニティを広げていく、というこの活動を私も身体から脳に攻め上るというような形でお手伝いしたいと思います。」

詳しく内容をご覧になりたい方は、是非YouTubeアーカイブをご覧ください。

参加者とアンケート結果

約500名の参加者の内訳は下記のとおり。多様な領域からご参加いただきました。

  1. 大学や国立の研究機関
  2. 製薬企業を含む、製造業などのメーカー
  3. プラットフォームを持つキャリアを含むIT企業
  4. ベンチャーキャピタルを含む金融業界、保険業界
  5. メディア

エコシステムを担うこれらの複数の領域から興味を持っていただき本コンソーシアムに参画いただくことで、ブレインテック産業を健全に発展させることができると確信しています。

イベントのアンケート結果は下記の通りです。イベント全体では、大変満足が61%、ほぼ満足が37%と、実に98%が満足したという、大好評な結果となりました。
また各セッションごとの満足度も、95%以上が有意義だったと回答。

今後のブレインテックへの興味や期待、イベント参加意思についても、それぞれ95%以上が肯定。コンソーシアムへの参加意思については、肯定が約30%、興味があり検討中が約65%でした。

ブレインテック・コンソーシアムでは今後も様々なイベントの開催を予定しています。法人会員、個人メンバーも募集していますので、皆さまのご参加をお待ちしております。