BTCカンファレンス 2021

「BTCカンファレンス」は、ブレインテック・コンソーシアムが主催する年に1度のカンファレンスです。2021年度の今回は、サイエンスアゴラ2021内のライブ配信企画として、ブレインテックに興味を持つ研究者や企業を対象に2021年11月3日に開催されました。本レポートで当日の内容を一部ご紹介します。

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目次

アーカイブ映像
基調講演―体内植込み型ブレインマシンインターフェース:誰も取り残さない社会の実現を目指して
コンソーシアム理事を交えたパネルディスカッション
参加者とアンケート結果

概要・登壇者

開催日時: 2021年11月3日(水・祝) 13:00〜15:00 オンライン開催
https://brain-tech.jp/conf2021/

【プログラム】
13:00~13:10 BTCカンファレンスについて
13:10~13:50 基調講演(平田雅之氏)
13:50~14:30 パネルディスカッション・質疑応答
14:30~15:00 交流
15:00 終了

【登壇者】
平田 雅之 氏
大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座
大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科学 特任教授
株式会社JiMed 非常勤取締役

藤井 直敬 氏
ハコスコ 代表取締役
医学博士/脳科学者
デジタルハリウッド大学大学院卓越教授
東北大学 特任教授

大隅 典子 氏
東北大学 副学長
大学院医学系研究科教授

川田 十夢 氏
AR三兄弟 長男

稲見 昌彦 氏
東京大学先端科学技術研究センター 教授
(以下、登壇者の敬称略)

アーカイブ映像

当日のイベントを見逃した方は、YouTubeにてアーカイブをご覧いただけます。

基調講演―体内植込み型ブレインマシンインターフェース:誰も取り残さない社会の実現を目指して

体内植込み型BMIについて

SDGsの根底にあるテーマ「誰も取り残さない社会」を植込み型BMI(ブレインマシンインターフェース)で実現するためには、という内容で基調講演が行われました。

体内植込み型BMIと、非侵襲の頭皮脳波などを利用したBMIの最も大きな違いは、手術が必要ですが正確な脳信号が計測できることです。平田先生は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という身体の筋肉がだんだん動かなくなっていく珍しい難病の治療を目的として、体内植込み型BMIの研究開発を続けています。ALSは「生きたいが、生きる選択が困難な病気」であり、ALS患者の半数以上が植込み型BMIを希望しているというアンケート結果が示されました。

植込み型デバイスの開発は10年ほど前から進められていて、最近ではワイヤレスのものも出てきました。植込み型デバイスの開発のためには、電極と集積化アンプと埋め込み装置が必要なため、多大な経費と時間がかかります。

医療機器の承認を目指して

平田先生は5年以上前からPMDA(医薬品医療機器総合機構)に相談しながら医療機器の承認を目指して進めてきました。希少疾病用医療機器指定や革新的医療機器条件付き早期承認制度といった枠組みも活用して、来年あたりから体内植込み型装置を使った検証治験に着手し、2025年頃の医療機器承認と保険適用を目指しています。

実用化するためには企業導出が必要なのですが、大企業にとっては参入障壁が大きいという問題があります。そのため、JiMEDというベンチャー企業で取り組みを続けています。

社会的インパクト

医療機器として承認されて実用化されると、脳に関するビッグデータが集まるため、そのインパクトは非常に大きいと言います。まずは重症ALSを対象にしていますが、BMIの性能が向上すると対象となる病気が広がり、脊髄損傷やてんかん、脳卒中といった病気も対象となり得ます。例えば脳卒中は国内に200万人の患者がいます。

また、BMIでスマートフォンなどの外部機器に接続することができるようになると、さらに応用範囲は拡大します。

課題

現行の薬事戦略・保険適用の仕組みは、薬剤の考え方がもととなっているため、単一の疾患に対して単一の効能しか認められていません。つまり、薬剤が人体に影響して反応が表れる、という構図があったため、他の効能の認可を取るためには、改めて治験などのプロセスを経る必要があります。

体内植込み型BMIは、最初に人体に埋め込む手術が最も危険なのであり、そこをクリアすると人体の情報をBMIで読み取って制御する、という構図になります。BMIによる応用範囲を上手く拡大していくためには、薬事承認の制度も変えていく必要がある、と平田先生は語ります。

コンソーシアム理事を交えたパネルディスカッション

ブレインテックで変わる
1. コミュニケーション 2. 衣食住 3. 社会の仕組み 4. 豊かさの意味 5. 倫理観

ブレインテックで変わっていくコミュニケーション。5~10年ほどはBMIでロボットアームが動くなど想像の範囲内と予想されますが、もっと普及したり、性能が上がった時にどのように変化するのでしょうか?

今行われている、頭の中で文字を思い浮かべてそれを出力するようなBMIは、「対話の拡張」と言えます。歴史を振り返ってみると、対話は進めば進むほど、繋がれば繋がるほど社会の分断が大きくなる、ということもあります。BMIでこれまでの「話す」を拡大するだけではなく、「同じように感じ取る」共感を広げていくような仕組みができると、新しいコミュニケーションになるかもしれません。

一方で、頭の中の情報をどこまで読み取るか、という点には注意が必要です。脳深部まで深く読み取ると、口には出していないけど頭の中で思い浮かべたことや、頭の中でイメージした視覚的な情報をデコーディングできる可能性は高いです。発信したい情報と、秘めておきたい情報をコントロールする技術が必要で、倫理的にどう制御するのかというポイントが重要になります。

他にも、言語を用いない脳直結のコミュニケーションを円滑に行うにはどう設計すれば良いのか、ブレインテックによって変わる衣食住や自意識、といったテーマについて議論が弾みました。詳しく内容をご覧になりたい方は、是非YouTubeアーカイブをご覧ください。

参加者とアンケート結果

約450名の参加者の内訳は下記のとおり。8月に行ったブレインテック・コンソーシアム キックオフイベントと比べ、さらに多様な領域からご参加いただきました。

  1. 官公庁
  2. 大学や国立の研究機関
  3. 総合商社
  4. 製薬企業を含む、製造業などのメーカー
  5. プラットフォームを持つキャリアを含むIT企業
  6. ベンチャーキャピタルを含む金融業界、保険業界
  7. メディア

イベントのアンケート結果は下記の通りです。イベント全体では、83%が満足したという結果となりました。
また各セッションごとの満足度については、平田先生の基調講演は100%の視聴者が有意義だったと回答。パネルディスカッションは89%の視聴者が有意義だったと回答しました。

今後のブレインテックへの興味や期待、イベント参加意思についても、それぞれ95%以上が肯定。コンソーシアムへの参加意思については、13%が既に参加済みで、肯定が28%、興味があり検討中が55%でした。

ブレインテック・コンソーシアムでは今後も様々なイベントの開催を予定しています。皆さまのご参加をお待ちしております。