CREATE FOUNDATION – 産業基盤をつくる

本年のBTCカンファレンスは、「Create Foundation – 産業基盤をつくる」をテーマに開催いたしました。ベンチャーサイエンティストが起業を志した際、それを支える仕組みは十分ではありません。本年はそれを支え、エコシステムを構築するための基盤つくりについて考えます。

基調講演には中里信和教授(東北大学病院てんかん科)をお迎えし、てんかんを中心とした神経疾患に対する臨床の現状と未来の可能性についてお話しいただきます。

その後特別講演として、WITH ALS‎武藤将胤氏を迎え、WITH ALSプロジェクトに関してご講演いただき、藤井直敬代表理事と議論を行います。

最後に、藤井直敬氏(BTC代表理事)、牛場潤一氏(慶應義塾大学)、成田修造氏(BTCパトロン)、池田陽子氏(内閣官房)、武藤将胤氏(WITH ALS)、中里信和氏(東北大学病院てんかん科)を交え、ブレインテックの産業基盤構築の現状と課題について議論します。

また、「ベンチャーサイエンティスト」育成を目的として、昨年のピッチイベント受賞者の近況報告や、ブレインテック研究者によるライトニングトークのセッションを設けます。

開催概要

  • イベント名:BTCカンファレンス 2023
  • 主催:ブレインテック・コンソーシアム
  • 開催日時:2023年10月16日(月) 18:00〜20:45
  • 会場:オンライン

プログラム

18:00~18:05 BTCカンファレンスについて
18:05~18:50 基調講演 東北大学 中里信和氏
18:50~19:00 ライトニングトーク:Team IZANA 井立聖二氏
19:00~19:05 ピッチ受賞者近況紹介:Gush 樋脇治氏
19:05~19:10 ムーンショット活動紹介:慶應義塾大学 武見充晃氏
19:10~19:40 特別講演:WithALS ‎武藤将胤氏
19:40~20:40 パネルディスカッション
20:40~20:45 閉会挨拶

BTCカンファレンス 2023 イベントレポート

ブレインテックコンソーシアム(以下BTC)は、「Create Foundation – 産業基盤をつくる」をテーマに、「BTCカンファレンス 2023」を開催しました。

本年度は、ブレインテックの基盤技術である脳活動を計測する機器を開発する研究者及び当事者、制作担当者をお呼びし、幅広い観点からブレインテックの産業化を進めるために議論いたしました。

登壇者

基調講演
パネルディスカッション

中里 信和 氏
東北大学 大学院医学系研究科
てんかん学分野 教授

特別講演
パネルディスカッション

武藤 将胤 氏
一般社団法人 WITH ALS
代表理事

ライトニングトーク

井立 聖二 氏
名古屋大学 大学院工学研究科
Team IZANA

パネルディカッション

池田 陽子 氏
内閣官房
新しい資本主義実現本部事務局
企画官

パネルディカッション

藤井 直敬 氏
BTC代表理事
ハコスコ 取締役
デジタルハリウッド大学 教授
東北大学 特任教授

パネルディカッション

牛場 潤一 氏
慶應義塾大学 理工学部
生命情報学科 教授

パネルディカッション

成田 修造 氏
BTCパトロン

基調講演
パネルディスカッション

中里 信和 氏
東北大学 大学院医学系研究科
てんかん学分野 教授

特別講演
パネルディスカッション

武藤 将胤 氏
一般社団法人 WITH ALS
代表理事

ライトニングトーク

井立 聖二 氏
名古屋大学 大学院工学研究科
Team IZANA

パネルディカッション

池田 陽子 氏
内閣官房
新しい資本主義実現本部事務局
企画官

パネルディカッション

藤井 直敬 氏
BTC代表理事
ハコスコ 取締役
デジタルハリウッド大学 教授
東北大学 特任教授

パネルディカッション

牛場 潤一 氏
慶應義塾大学 理工学部
生命情報学科 教授

パネルディカッション

成田 修造 氏
BTCパトロン

BTCカンファレンスについて

BTCはそのミッションである「ブレインテックの産業化とエコシステムの創造のためのプラットフォーム」を実現するために、ブレインテック産業界での3ヵ年計画を立ち上げています。現在、2年目に当たる今、ベンチャーサイエンティストを支える産業基盤を作る資金・人材の回る仕組みと認知向上を目指しています。

BTCは、ベンチャーサイエンティストたちがプロジェクト・事業というロケットを打ち上げるプラットフォームとなる予定です。BTCフェイスブックコミュニティは、現在2400人となっています。また、DNPはじめとする協賛スポンサーとともに、BTCはファンド環境の整備も計画中です。

基調講演 東北大学 中里信和氏

東北大学より日本で初めててんかん科を開設した中里信和氏にご登壇いただきました。「てんかん」とは繰り返す発作が特徴の脳の状態です。てんかんとその治療にかかる脳計測機器の技術的展望についてご紹介いただきました。

てんかんの診療及び治療として、まず問診を行います。その後、必要に応じて問題の部分を特定するために脳波計を用います。また、電気刺激、もしくは、外科的処置によって治療します。

脳波計や脳磁計は時間精度が高いですが、脳磁計は空間精度でより優れています。中里氏は、身体各部の体性感覚を脳磁計によって計測できることを研究しています。

脳磁計の限界として、かつては超電導(液体ヘリウムで-269°C)の環境で超電導粒子干渉素子(SQUID)という形で計測の必要がありました。現在では、室温/皮膚温でも使用可能なトンネル磁気抵抗(TMR)という技術があります。TMRを5000よりも多い他チャネルで計測する将来も考えられます。

ライトニングトーク:Team IZANA 井立聖二氏

名古屋大学博士課程のTeam IZANA 井立聖二氏にご登壇いただきました。Team IZANA 超高感度磁気センサ「MIセンサ」を用いる脳磁計(MEG)の開発を行っているグループです。MEGの方が空間的精度が優れているが、高価で限られた環境でしか使えないという問題点があります。こちらをMIセンサで解決すると言う試みを行っています。

ピッチ受賞者近況紹介:Gush 樋脇治氏

前回、ピッチでCIC賞を受賞されたGush 樋脇治氏にご登壇いただきました。磁界バイアスプローブ型脳機能計測法(MBP)を開発中で、会社を起業しています。159チャネルMBPシステムで運動関連脳信号が高時間分解能かつ高空間分解能で全頭から計測できたことに関しての研究成果を共有いただきました。

ムーンショット活動紹介:慶應義塾大学 武見充晃氏

ムーンショットで活動されている慶應義塾大学 武見充晃氏にご登壇いただきました。”Building trust in Neurotech”をビジョンとしてムーンショットでは、2022年にブレイン・テック ガイドブック、2023年にエビデンスブックを公開しました。詳しくは、こちらをご覧ください。

特別講演:WITH ALS ‎武藤将胤氏

WITH ALSで活動されている‎武藤将胤氏にご登壇いただきました。武藤氏は、自らALSを発症したことをきっかけにして、WITH ALSを設立しました。ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるボーダレスな社会を創造することをミッションとして活動する団体です。様々な活動をご紹介いただきました。詳しくは、こちらをご覧ください。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、体を動かすのに必要な筋肉が徐々にやせていき、力が入らなくなる病気です。

現在ALSを支援する技術として視線入力があります。視線入力を用いてDJライブを開催しました。

ALS患者が恐れる状態として、完全閉じ込め症候群(TLS)があります。TLSとは、眼球運動を含めた、全ての筋肉活動が停止して完全に周囲との意思伝達を、奪われてしまう状態です。TLSになった場合の最後のコミュニケーション手段として脳計測器に期待を寄せています。そこで、脳波を使ってロボットを操作する試みを行っています。

パネルディスカッション

当事者・臨床家・ディープテック起業家/研究者・政策担当者・事業家など様々な観点からブレインテック産業界育成のために議論いたしました。最後には登壇者一同、様々なステークホルダーから専門的な知見を持って協力しながら一層ブレインテックの産業化に取り組むと意気込みました。

藤井氏:今回の講演はいかがでしょうか?

全員:武藤氏の講演を受け、登壇者一同、ブレインテック業界発展に寄与したいと鼓舞されました。そして、より精度の高い脳機能計測機器の開発が重要となることが明確化されました。

藤井氏:また、ご自身もALS患者であるデジタルハリウッド大学学長杉山知之氏のメッセージもご紹介いただきました。今後はブレインテックとともにMR技術も含めたデジタルでのコミュニケーションにも期待を寄せられていることもご紹介いただきました。

中里氏:臨床家として侵襲的な研究が行いやすい一方で、臨床的アプローチは研究資金をファンドとする以上、規制がボトルネックとなる場合があります。特に、ブレインテック業界は、医療・介護・健康関連分野に関わるため規制がイノベーションの阻害要因となり得ます。

牛場氏:(牛場氏はBMIを応用したリハビリ機器の開発・製造・販売をする会社を経営しています。詳しくはこちらをご覧ください。)

大学発のハードテック・ディープテックを産業化する難点としては、前例のない技術を0から開発・活用していくことです。まさに、レギュレーションに関しては、安全性・客観性を定量的・定性的に評価していく基準もないです。類似製品はそもそもないため、実際に効果があるのか利用者に説明すること・理解してもらうことも難しいです。また、使用する側(この場合、医療業界の医師、看護師、そのほかケアを行う方々)としても、他の対応策も考慮にしつつ、どのように新しいツールを活用するか想像しにくいです。そのため、大規模に展開することも難しく、経済的にも継続困難となります。今後は、研究者・学生・当事者も含めてMVPの実験をできるハッカソンのようなコミュニティを考えていきたいです。

藤井氏・牛場氏:スピード感を持ってプロダクトを世に出せた例として、大学発のディープテックとして、筑波大学発CYBERDYNE社があります。官学民連携があったからこそだと考えています。

池田氏:内閣官房で政府全体のスタートアップ政策を統括しています。また、10年以上前から追いかけて、筑波大学発スタートアップのCYBERDYNE社が開発した世界初のサイボーグ型ロボット「HAL(Hybrid Assistive Limb)」のケーススタディ論文を出しています。CYBERDYNEは、HALの社会実装にあたり、ルールがなければ自ら作るのだ、ということで、特区制度を活用してデータを収集し、日本主導でのサービスロボットの国際安全規格「ISO13482」の策定に至りました。これは、まさに官民共創のイノベーションの好例といえます。CYBERDYNEの山海社長は、ルール形成の重要性を深く理解され、常に情熱を持って取り組まれておられ、それが、私を含めた官民の関係者を広く巻き込み、共創へのモメンタムにつながったのではないかと思います。先ほどの武藤さんのお話にもたいへん感銘を受け、支援していきたいという気持ちになりました。

また、新技術や新しいビジネスモデルが次々と生まれていますが、ルールがないというより、むしろ現状の法規制に抵触してしまい、社会実装が阻まれることも課題になっています。これに対応するため、政府は、特区制度や規制のサンドボックス制度を通じて、「実験場」を提供しています。規制のサンドボックス制度は、スタートアップを中心に150社に利用され、実際に法改正につながったケースもあります。

藤井氏:政策・規制に関して聞きたい場合はどうすれば良いのでしょうか?

池田氏:担当窓口がわかっている場合は、直接お問い合わせいただければと思います。ただ、霞が関も広くて、ピンポイントで特定するのはなかなか難しいこともあるかもしれません。現在、省庁横断でスタートアップ施策を見ているので、まずは私にご相談いただいても大丈夫です。

藤井氏:スタートアップを起業した事業家として、何がブレインテックに必要でしょうか?

成田氏:技術の発展のタイミングで産業化への支援するエコシステムが重要です。まだブレインテックは、実証実験の段階が多いが、アメリカにあるように適切なタイミングで投資、政府、人材の支援が行われるような仕組みが重要です。今後、適切なタイミングで人材、お金、研究が揃えばAIのように産業化できると考えています。

藤井氏:中里先生は臨床家ですが、産業化についてはどのように考えていますか?

中里氏:ユーザーのいるプロダクトを作る際は、今・次世代に対してアイデアを潰すのではなく育てる・支援することが重要だと思います。私が若い時にも先生に鼓舞してもらいながら40年以上研究を続けられたように支援したいと考えています。

武藤氏:臨床家・研究者だけでなく当事者がハブとなってそれぞれの専門的な知見を活用して産業化を推進することが重要だと思います。

ブレインテックに関しましてベンチャーサイエンティストとして事業を企画している方はぜひBTCまでご連絡ください。

参加者とアンケート結果

95.1%の参加者が満足していました。

特にメインのイベントである基調講演:東北大学中里信和氏、特別講演:WithALS ‎武藤将胤氏、パネルディスカッションは参加者100%が有意義と感じました。

こちらが参加者の属性です。

フォームの回答のグラフ。質問のタイトル: あなたが属する業界・機関を教えてください。。回答数: 38 件の回答。

参加者からいただいたご質問で、イベント中に回答できなかったものをこちらへ記載しておきます。

質問1) 武藤さんへご質問ですが、脳波を活用してナースコールを出来るシステムが出来ると価値があるのではないかと考えているのですが、どうでしょうか? (デジハリ大の杉山学長のメッセージでも緊急の場合の意思伝達が非常に問題とありましたが)

おっしゃる通り、脳波を活用したナースコールが実用化出来るととても便利だと思います。 但し、24時間装着していても不快にならない、軽量化した脳波計の開発が必要不可欠になってきます。   

質問2) 武藤さんと池田さんにご質問です。 サンドボックス制度など、スタートアップ・研究者起点で実験できる場所があるのはわかりました。 当事者をどのように巻き込めるでしょうか? 

サンドボックス制度の一環として、当事者を含めたアイディアハッカソンのイベントなどを定期開催していくと、もっと当事者を巻き込んでいけると私は考えています。

協賛スポンサー

趣旨に賛同くださる協賛スポンサーを募集しております。

詳細はコチラ

後援

ブレインテック・コンソーシアムでは、ブレインテックの産業化とそのエコシステム創造を目指し、業界の発展に寄与できるよう邁進して参ります。

問い合わせ先

ブレインテック・コンソーシアム事務局 お問い合わせ:https://brain-tech.jp/contact/